新年のごあいさつ(2025年)

一般社団法人 岡山県老人保健施設協会
   会長 秋山 正史(倉敷藤戸荘)

 明けましておめでとうございます。

  昨年の新年挨拶では同時改定とインフレの話をしました。注目していた令和6年度の介護報酬改定率は1.59%のプラス改定となりました。その内の0.98%が給与アップに充てられています。実感がない!?そうかもしれません。コロナとウクライナ戦争に始まったインフレはとどまるところを知らず、令和5年度の物価上昇率は2.8%で、今年度も2.01%が予想されており、0.98%の給与アップでは全く足りていない状況です。老健で働くスタッフの生活を守ることも私たち老人保健施設協会の使命です。次期改定に向け或いは改定を待たずに処遇改善を行うべく関係省庁に働きかけていこうと思います。

 さて近頃、介護施設や医療機関から「利用者さんがいない」「患者さんが減った」との声を頻繁に聞くようになりました。これは個人的にも感じるところで、多くの皆さんに同意していただけるのではないでしょうか?昨今の施設や病院の経営の難しさは単にインフレによる物価高騰すなわち出費の増加だけではなく、利用率の低下による収入の減少も大きな要因である可能性があります。全国の介護老人保健施設の平均入居率を見ても2012年には95%であったものが2019年には92%、2022年には88%と顕著に低下しています。特養や他の施設も同じような数値で推移しています。
 これにはさまざまな理由があげられています。①新型コロナウイルス感染症で多くの高齢者が亡くなった。②高齢者数の増加以上に施設数が増えた。③元気な高齢者が増えて介護サービスを使わなくなった、等々。実際のところ、どうなのでしょうか。
 まず、①コロナで高齢者が亡くなった説です。確かに老健の利用率を見ると2012年から2019年の7年間は緩やかに3%低下しているのに対し、コロナが始まった2019年から2022年の3年間で4%ほど利用率が低下しています。これだけだと一見信憑性があるのですが、岡山県の75歳以上人口は同期間で1,200人ほど増加しています。さらに2023年と2024年の2年間ではさらに2,200人増加しています。この数字を見ると、どうやらコロナでの超過死亡だけで説明することは難しそうです。
 ②施設数の増加はどうでしょう。岡山県の入居施設のベッド数を見ると、2014年の27,113床から2022年の28,513床まで8年間で1,400床あまり緩やかに増加しています。一方でこの期間の75歳以上の人口はおおよそ6,300人増加しているので、やはり介護サービスの増加だけでは十分説明できないように思います。
 ③高齢者が元気になった説を考えてみます。私が子供の頃、60歳といえば本当にお年寄りで、お爺さん・お婆さんと呼んでも全く違和感はありませんでした。現代の60歳男性にお爺さんと呼びかけても怒られるどころか呼んでいることすら気付いてもらえないと思います。昔の60歳は今の80歳に相当するのではないでしょうか。団塊の世代という新しい意識の方々が後期高齢者の多数を占めるようになったことが、健康寿命の延伸と要介護期間の短縮に大きな影響を及ぼしていても不思議ではありません。そこで、高齢者人口に占める要介護者の割合に注目してみましょう。2015年と2021年を比較したデータでは、要介護3以上の認定率は80−84歳で1.2%、85-89歳で1.8%、90歳以上で4%、それぞれ低下しています。後期高齢者全体で約2%低下したと仮定すると、高齢者人口の増加を加味したとしても、県内で要介護3以上の方が6年間で約3,500人減少していることになります。これだとかなり納得できるのではないでしょうか。
 昨今の変化は、リハビリテーションや在宅復帰といった施設の取り組みが数字となって現れていることに他なりません。私たち介護老人保健施設は変化の立役者であるのだと胸を張ってよいと思います。しかしながら、一方で経営環境の改善にも取り組まなければならないという大きな課題が出てきたことも事実です。介護老人保健施設の存在意義をより確固たるものにしながら、かつ環境変化にも対応すべく、協会員一丸となって頑張っていきましょう。

 今年は全国大会が11月に中国地方の山口県下関で開催されます。また、10月には岡山県地域包括ケアシステム学会学術集会を老健協が担当となって開催します。2040年に向けた老健の役割について共に考える機会です。皆さん奮ってご参加ください。本年もどうぞよろしくお願いいたします。